テクニカルコミュニケーションとは、技術的な知識や立場が異なる人同士の間で、円滑に情報を伝えるための技法です。複雑な情報を整理・可視化し、説明書や手順書としてわかりやすく届けることで、利用者の理解や安全・効率的な利用を促すことを目的としています。

テクニカルコミュニケーションには、以下のような国際規格が関係しています。

• ISO 24183：2024-01『Technical communication - Vocabulary』
• IEC/IEEE 82079-1：2019-05『製品の使用情報（使用説明）の作成ー第１部：原則及び一般要求事項』
• JIS X 0153：2024（ISO/IEC/IEEE 26514：2022）『システム及びソフトウェア技術ー利用者用情報の設計及び作成』

これらの規格は、情報の品質や設計を国際的に標準化するための基準です。

主に以下のような場面で活用されます。

• 製品やサービスの安全・効果的な利用を促進する手順やガイドの作成・提供・評価
• 製品の説明書、製品に関連する業務手順書の作成・提供・評価
• 利用者の誤解や操作ミスを減らすための手順の作成・提供・評価』

また、製造物責任法（PL法）や景品表示法など、情報提供が法律で義務付けられている場面でも重要な役割を果たします。

テクニカルコミュニケーション技法には、製品やサービスの仕組みを理解するだけでなく、以下のような多岐にわたるスキルが求められます。

• 技術情報の収集・整理能力
• 説明対象の製品やサービスの仕様と不確実性を理解する力
• 法令や規格要求を読み解く力
• 情報の中身と媒体を適切に設計・表現する力
• 利用者の目的やリテラシーに合わせて伝える力
• 日本語や英語での文章作成力、説明図の作成力、デジタルツールの活用力

これらの能力を総合的に駆使することで、正確で伝わる利用者用情報を提供できます。

主にテクニカルコミュニケーターや情報設計者（インフォメーションアーキテクト）などが担当しますが、エンジニア、マーケター、法務担当者なども一部を担うことがあります。情報の正確性とユーザー視点を両立させる必要があるため、製品・サービスに関わる多職種の連携が重要です。

テクニカルコミュニケーションは、単なる文章作成にとどまらず、技術・法令・規格などの専門的知識に基づいて情報を設計・表現する点が異なります。また、利用者の立場やリテラシーに応じて「どのように伝えるか」までを考えるため、構造設計や視覚化（図・表現）も含まれる包括的な技法です。

最大の特徴のひとつは、他人の著作物（例：技術者が書いた設計資料や仕様書）を、読み手や目的に合わせて書き換えることを前提とした技法である点です。他のコミュニケーション技法が著作物の改変を避ける傾向にあるのに対し、テクニカルコミュニケーションはその「書き換え」によって、より伝わる情報へと変換することを目的としています。

情報の正確性や信頼性を維持し、書き手に依存しない「属人性の排除」を実現するためです。たとえば、製品マニュアルやトリセツは、長年にわたり書き手が変わっても品質が一貫しており、異なる組織や業界でも類似の構成・表現・情報管理プロセスが採用されています。これは、標準化された工程と構造化された技術が広く浸透している証です。

発信する情報の正確性・信頼性を担保し続けるためです。法令や規格に準拠した情報提供を行うには、どの情報がどの出典に基づいているのか、誰がいつ更新・改訂したのかを明確にする必要があります。これにより、万が一誤りがあっても迅速に原因を追跡し、正すことが可能になります。

主に「テクニカルコミュニケーター」と呼ばれる専門職が使用します。彼らは、技術情報や仕様情報を、利用者にとってわかりやすい形に再構成し、説明書や手順書として届けることを担います。ただし、製品やサービスに関わる他の職種（例：開発者、UXデザイナー、広報担当者など）も、部分的にテクニカルコミュニケーション技法を活用することがあります。

テクニカルコミュニケーターには、多岐にわたるスキルが求められます。たとえば、

• 文章・図・動画・音声など多様な表現手法を組み合わせる表現力
• 法令や規格を踏まえて情報の品質を安定させる知識
• 情報の構造設計と媒体制作、維持管理の能力
• 開発者や関係者との調整やプロジェクト管理能力

これらのスキルを総合的に活用することで、正確で使いやすい利用者用情報が生まれます。

テクニカルコミュニケーションの技法は、実務を担うテクニカルコミュニケーターたちの実践と研鑽によって継続的に進化しています。たとえば、新しいメディア（動画・インタラクティブコンテンツなど）への対応や、ユーザー体験（UX）を意識した情報構造の設計、国際規格や法令との整合性強化などが進んでいます。現場から生まれる知見が標準化されることで、技法そのものも成長しています。