【記事】テクニカルコミュニケーターは機械翻訳をどう学ぶべきか

 テクニカルコミュニケーターの業務の中心は日本語版や英語版の製品・サポート情報を作ることですが、これらを翻訳元として仕向地に適した他言語版を作ることも業務に含まれています。ここに翻訳業務との濃密な接点が生じます。
 「①何が書かれているのかを知るために機械翻訳を活用する」ことについては日常生活で馴染んでいるテクニカルコミュニケーターも少なくないでしょう。しかし、「②書かれている内容を言語の壁を乗り越えてつたえるために機械翻訳を活用する」ことにおいては試行錯誤を続けているテクニカルコミュニケーターが少なくありません。産業翻訳における機械翻訳導入の是非そのものに悩んだり、効果的な活用プロセスを試行錯誤したりの連続ではないでしょうか。①は情報活用の一環ですが、②は情報をつくり、つたえる責務を担う業務であることが違いを生んでいます。
 コミュニケーションデザインシンポジウム2022でも、スポンサーセッションや事例研究発表において、機械翻訳関連ツールやその品質評価事例について幅広い情報を得ることができます。加えて、このような時に役立つ訳書があります。
 シンポジウム2022をご支援いただいている一般社団法人日本翻訳連盟の副会長でもある翻訳家の高橋聡(たかはし あきら)氏から、機械翻訳について概要を掴むのに格好の1冊として『機械翻訳 歴史・技術・産業、ティエリー・ポイボー著、高橋聡訳』(2020年森北出版)をご紹介頂きました。自ら翻訳するのではなく、業務の一環として翻訳工程を扱うテクニカルコミュニケーターにとって重要なのは、そもそもよい翻訳とは何なのかという根本的な問いの答えを理解することです。機械翻訳について興味のある方は一読をお奨めします。

  • 機械翻訳という古くて新しい技術を、技術面からだけでなく人間の言語活動の一環として捉え、かつ翻訳産業という視点も踏まえている点で、本書はかなりuniqueと言えます(高橋氏による訳者あとがきから引用)
  • 機械翻訳をはじめとする文を生成しなければならないような問題では、そもそも「正解」が一つではないという点も重要である(中澤氏による解説から引用)
  • 統計翻訳とは異なり「前段で人の手が不要になる」と本書第12章では書かれているが、これは若干不正確である(中澤氏による解説から引用)

目次の一部
 第2章 翻訳を巡る諸問題
     翻訳するとは、どうゆう意味なのか / 良い翻訳とは / 
     自然言語コンピューターで解析することが難しい理由 / 
     人工のシステムと自然のシステム
 第13章 機械翻訳の評価
     最初の評価キャンペーン / 自動評価の手法を求めて /
     評価キャンペーンの普及 / 自動評価で得られた教訓
 第14章 産業としての機械翻訳:商用製品から無料サービスまで
     評価の難しい業界 / 機械翻訳の新たな応用技術 /
     翻訳支援ツール / 
 第15章 結論として:機械翻訳の未来
     商業上の課題 /
     機械翻訳に対する認知的に健全なアプローチ
 解説  中澤敏明(東京大学大学院情報理工学系研究科特任講師)
 訳者あとがき