【開催日】 8月27日(月)10:15~12:15、14:00~16:30
【会 場】 東京学芸大学 小金井キャンパス N410教室
【参加費】 事前登録制 入場無料
1989 年に第1 回テクニカルコミュニケーションシンポジウムが東京で開催されてから、本年で30 年が経過し、関西開催は20 年が経過したという節目を迎えました。高齢社会の到来、IoT、AI の実務適用の本格化、そして機械翻訳の普及などTC を取り巻く環境が大きく変わりつつあります。一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会(JTCA)は新たなステージへの飛翔を目指して、一般社団法人日本翻訳連盟(JTF)とのコラボレーションを今までよりも強力に推し進めることにしました。
本年のTC シンポジウム2018 における翻訳関連企画はすべてJTF との共同企画とし、8 月27日(月)開催のTC シンポジウム30 周年記念イベントでは、以下に紹介する2 つのセッションを開催します。JTCA 会員・非会員およびJTF 会員・非会員共に入場無料にて参加できます。
申込み方法については、TCシンポジウム2018【東京開催】ページをご確認いただき、【東京開催】参加申込書に必要事項をご記入の上、お申込みください。
多くの皆様のご参加をお願い申し上げます。
一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会
代表理事 山崎 敏正
30周年記念イベント詳細
★ イベントに先立ち行われた、この事業推進の中核を担う3人の座談会の模様を紹介します。
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2018年。TCシンポジウムは、東京開催の30周年、関西開催の20周年という節目の年を迎えました。高齢社会の到来、AIやIoT(Internet of Things)の実務適用の本格化、そして機械翻訳の普及。テクニカルコミュニケーターを取り巻く環境が大きく変わりつつある今、一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会 (以下JTCA)は新たなステージへの飛翔を目指して、一般社団法人日本翻訳連盟(以下JTF)とのコラボレーションを今までよりも強力に推し進めることにしました。
TCシンポジウム2018における翻訳関連企画はすべてJTFとの共同企画とし、8月27日(月)開催のTCシンポジウム30周年記念イベントでは共同企画で2つのセッションを開催。TC協会とJTF双方の関係者がともに集う場を演出します。 この事業推進の中核を担う3人に、今回のコラボレーションへの期待を伺いました。
――― コラボレーションに期待すること
安達 : 期待することはふたつあります。
ひとつ目は、このコラボレーションをJTCA、JTFそれぞれのイベントに活かしたいということです。
JTCA主催のTCシンポジウムが記念すべき30回目を迎えられる今年、JTFが主催するJTF翻訳祭を、初めて京都で開催します。場所は京都大学の芝蘭会館です。ふたつのイベントの開催場所や日程が近い今回、コラボレーションを会員やイベント参加者にとって有意義なものにしたいと考えています。
ふたつ目は、JTFとJTCAが互いに情報提供し合い、双方の理解が深まることです。JTFの会員は主に翻訳会社と翻訳者です。JTFにとって、 JTCAは翻訳のソース言語を取り扱う立場の方々が所属する組織です。JTCAの会員企業から教えていただくこともありますし、逆にJTFの会員企業や翻訳者が教えることもあるでしょう。
黒田 :JTCAが期待するひとつ目は、JTFとJTCAが組織同士で手を携えて、関係者が意見交換できる場を創出することです。近年コンテンツの提供のしかたが急激に変わってきています。閲覧環境の主体がパソコンからスマホに変わり、ドキュメント単位でコンテンツを作り提供する時代から、もっと小さい情報単位で作り提供する時代へと変わりつつあります。ニーズの変化に伴い、テクニカルコミュニケーターは使用情報の制作プロセスや、その制作物を評価する観点を見直さなくてはなりません。
使用情報の翻訳に際しては、日本語や英語で作ったコンテンツを「あとはよろしく」と、翻訳会社に依頼するケースが少なくありません。コラボレーションを機会に、翻訳に直接関わる専門家から「翻訳を依頼する際にはこうしてほしい。そうすればこんなメリットを提供できる」という提案を、直接伺いたいと考えています。
ふたつ目は、機械翻訳やAIという最新技術の恩恵を享受するには、現在の作業プロセスの何を変えなくてはいけないのかについて、翻訳工程の専門家から伺いたいのです。機械翻訳の活用が急増する兆しが見えている今だからこそ、最新技術を活かす要件を一緒に考えていきたいと考えています。
森口 : 私は、JTFではJTF翻訳祭の広報委員を担当し、JTCAではTCシンポジウム委員を担当しています。
今回は、それぞれのイベントで、両団体が登壇し、議論する場を企画しました。 8月27日(月)のTCシンポジウム30周年記念イベントでは、自動翻訳の現状についての発表と、多言語翻訳の品質管理についてのセッションを企画しています。10月3日(水)から5日(金)に開催される京都シンポジウムでは、用語集に関る議論を行います。
JTCAイベントでの議論の内容を受けて、10月25日(木)、26日(金)のJTF翻訳祭では、翻訳の品質評価に関するセッションや、国際規格で扱う用語集についての討論をする予定です。
黒田 : 両組織の立場で活動いただきありがとうございます。
JTCAは、企業における説明責任、つたえる義務の履行や推進に欠かせないテクニカルコミュニケーション技術を研鑽し、その普及促進を図る団体です。製品やサービスを開発して市場に提供する製造業を中心に、製造業支援サービス業を含めた法人主体の組織です。
翻訳に関係する企業や個人の参加もありますが、多くは翻訳元の使用情報の企画制作に関わる組織や個人の集まりです。近接職種に属する専門家とのコラボレーションに、大きな期待を寄せています。
――― 自動翻訳?、それとも機械翻訳?
黒田 : JTCA関係者は「機械翻訳」と呼びますが、森口様は「自動翻訳」と呼ぶのですね。JTCAではMachine Translationの訳から機械翻訳と呼ぶことが多いのですが、JTFでは使い分けをしているのでしょうか。
森口 : もともと「機械翻訳」は研究者や開発者の間で使われることが多い言い回しでした。しかし、「機械」とつくと人間との対立構造を連想させてしまうと考えて、自動翻訳という言葉を用いる機会が増えています。ニューラルネットワークマシントランスレーション(以下NMT)や AI技術の登場を境に、翻訳サービスを「自動翻訳」と呼ぶことが多くなりました。
黒田 : なるほど。テクノロジーを駆使して翻訳を処理する機構(ソフトウェアエンジン)を「機械翻訳」と呼び、この機構を内包する器機やサービスの総称を「自動翻訳」と呼称して、使い分けるのですね。 自動翻訳では、機械翻訳は過去のリソースの再利用では対応できない新たな文章表現を翻訳する機構を意味していて、その部品として内包されると。自動翻訳においては、機械翻訳とは別の機構として、TMやTMを元にした翻訳モデルや用語管理機構など、過去の翻訳資産を活用する機構が併存するものであると。
森口 : はい。「自動翻訳」は、強いて言えば、Automated Machine Translationと欧米で表現され始めたソリューションを表す言葉の日本語訳になりますね。
黒田 : 経済産業省では、一貫して「自動翻訳」という言葉を使っているようですし、最近ネットで使われる言葉としては自動翻訳が目立ってきていますが、多くは「自動翻訳サービス」「自動翻訳機」を指していますね。 では、この座談会では、機械翻訳と自動翻訳を意識して使い分けるようにしましょう。
黒田 : 30年前から関係者が集うTCシンポジウムを開催していますが、5年ほど前から再び機械翻訳に関する話題が採りあげられています。機械翻訳の黎明期とはその完成度が大きく変わってきたからでしょう。
翻訳業を本業とする企業や個人が集うJTFでは、機械翻訳の活用、自動翻訳の広がりはどのように受け止められているのでしょうか。
安達 : 翻訳業界では、機械翻訳は向き合っていく必要がある技術として受け入れています。いろいろなアプローチを試み、ノウハウを積んでいますので、提供できる情報は多いです。JTCAとは、今後、機械翻訳活用における品質の担保などをディスカッションしていきたいですね。
――― 機械翻訳活用の課題はデータ構造にあり
黒田 : 翻訳工程を担う側では、翻訳用として渡されるデータの構造が複雑になっていることが課題になっているそうですね。
テクニカルコミュニケーターは、翻訳元となる情報を作成する際に、作成側の都合で、文章の構造を明示するタグに加えて、変数設定、翻訳不要箇所、情報再利用箇所など、さまざまな構造や属性情報を含めることが増えています。その複雑さは、新たにTC分野に入ってくる人が習得するに際しても難しいと意識されるまでになっています。これが翻訳に際して差し障るであろうことは想像できます。
安達 : そのとおりです。翻訳元データに対して、翻訳側では前処理と後処理を行う必要があります。タグから翻訳すべきテキストを抽出し、翻訳後にまたタグ構造の中にテキストを戻す、という流れです。
自動翻訳を活用するのであれば、複雑に構造化されたデータは翻訳作業の障壁になってしまうことがあります。NMTの文脈解析に差し障るからです。 自動翻訳の活用を推進するために、このハードルが下がるといいな、と考えています。
森口 : 新興企業が多いソフトウェア開発の業界では、markdown記法が使われるようになっています。Git(ギット)からヘルプを作るニーズがあり、その工程で使われているようです。このデータであれば、翻訳工程の前処理、後処理が楽で、効率的です。
補足:
Git…プログラムのソースコードなどの変更履歴を記録・追跡するための分散型バージョン管理システム
黒田 : JTCAは、これまで長年にわたってドキュメンテーションの生産技術を磨いてきました。XML技術を駆使した構造化情報の処理技術もそのひとつで、大量の文書を短期間に効率的に生産することに大いに貢献してきました。
しかし、ユーザーが求めているものが、ドキュメンテーションからインフォメーションやコミュニケーションへと、大きく変わってきています。これに合わせて、テクニカルコミュニケーターが作成して提供する使用情報の単位も、より小さなものへとシフトしていくことでしょう。TC技術もこの変化に対応できるものに変えていかなくてはなりません。
技術進化が先行するソフトウェア開発のノウハウを積極的に取り入れていきたいと考えています。markdown記法はそのひとつです。「マークダウン」と名付けられていますが、技術的にはマークアップ記法のひとつで、アジャイル開発、機能単位の開発、情報作成、翻訳に適しているとされています。
森口 : 翻訳の世界も処理のしかたが少量化、短納期化に変わってきています。
黒田 : 私たちは、翻訳を考慮した日本語表現もちろん、翻訳を考慮したデータの作り方も考えています。 開発工程がアジャイル化している中で、作業単位がUIや機能ごとなど小規模化していく傾向があります。数百ページを改版するために洗練された仕組みは、このような小規模作業には最適とは言い難い面があるからです。
情報提供の場がWeb化していく中では、翻訳者はマークアップデータを直接翻訳されているのですよね。
安達 : 翻訳をする際に受け取るデータが複雑になってきているのは私も課題と感じています。機械翻訳するにも人手翻訳するにも苦労しています。データ構造がシンプルになれば、その負荷は減ります。markdown記法でデータ構造のシンプル化が実現できれば、全体最適が実現できると考えています。
黒田 :JTCAとしては、作業プロセスや採用技術の選択肢を増やしていきたいと考えます。従来の手法に加えてmarkdown記法の活用も、検討対象に加えていきます。
このような共通する話題については、JTCAとJTFとが共同して一つのカタチとして提案できればよいなと考えています。そのためには、同じ場所でそれぞれの立場から意見交換することが大事です。その結果、新しいテクノロジーや手法の上手な活用方法が、より実践的に、より早く生み出されていくことを期待するからです。
30周年記念イベントは、過去を振り返るノスタルジックなものではなく、未来に向けた前向きな場としたいと考えます。だからこそ、記念イベントをあえてコラボレーションの場として企画しました。今後とも、イベント以外の場でもコラボレーションしていきたいですね。
本日はありがとうございました。
安達&森口 : ありがとうございました。
2018年5月 一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会